健康志向が高まる昨今、ジョギングやマラソンを趣味にする人が増加してきています。
その一方で、健康のためにマラソンをはじめてはみたものの、長続きせず「止めてしまった…」という人も少なくありません。
ジョギングやマラソンが長続きしない人のおもな理由は、「きつい」「楽しくない」というもの。
ただ、せっかく目的を持ってはじめたのであれば、できるだけ続けていきたいものです。
「きつい」「楽しくない」と感じてしまうジョギングやマラソンを長続きさせるためには、やはり走ることが気持ち良く、楽しいと感じられるようになることが一番です。
そこで今回は、つらいマラソンの最中にこそ、ランナーが感じることのできる爽快感、「ランナーズハイ」についてお伝えしていきます。
実は、このランナーズハイ、偶然起こるものではありません。ランナーズハイを起こすためには、いくつか必要な方法や準備があるのです。
ランナーズハイには、爽快感以上に得られるものがあるとも言われていますので、これから紹介する内容をぜひ、あなたの走り方に取り入れてみてください。
ランナーズハイってなに?
プロ・アマ問わず、マラソンやジョギングをしている人なら一度は感じてみたいと思っている「ランナーズハイ」。
しかし、そもそも「ランナーズハイ」とはどのような状態のことを指す言葉なのでしょうか?
まずここでは、ランナーズハイとは何なのか、そして、なぜランナーズハイになるのか、についてお伝えします。
ランナーズハイとは
ランナーズハイとは、マラソンやジョギングなどで長距離を長時間走っているにも関わらず、次第に苦しさから解放されて気分が高揚してくる状態を指す言葉です。
本来、長い距離を長時間走っていれば、心身に疲労がたまり苦しくなっていきます。
とくに、マラソン大会のような長距離レースになると、レース前半は心身に余裕があるのですが、後半は疲労が溜まってつらく苦しくなるものです。
しかし、本来であれば苦しくなってくるはずのレース後半に「苦しさから解放されて走ることが楽になる」という不思議な現象が起きます。
これが「ランナーズハイ」の状態です。
ランナーズハイになると、身体が苦しさから解放されるだけでなく気分も高揚してくるため、どこまでも走り続けることができるような爽快感を感じることができます。
ランナーズハイになる理由
では、なぜ「ランナーズハイ」になるのでしょうか?
ランナーズハイになる理由には、脳内伝達物質の影響が大きく関係していると言われています。
疲労感を和らげ、気持ちを高揚させる作用がある脳内伝達物質の影響により、どれだけ走っても疲れない「ランナーズハイ」が起こるというのです。
もちろん、そうした科学的な根拠は重要ですし、それらが私たちの心に作用していることも確かです。
しかし、科学的な根拠だけを頼りに走り続けても、必ずランナーズハイの状態になるわけではありません。
実は、科学的な根拠以外で、ランナーズハイを起こすために必要なことは「走る動機」と言われています。
ダイエットや健康のために走ることも大切な目的ですが、そうした目的のみに気持ちが傾いてしまうと、純粋に走ることを楽しめません。
ランナーズハイは「走りたいから走る」というような走る動作に対する「内発的な動機」が強い時に起こりやすくなると考えられています。
ですから、内発的な動機を持って走ることを行えば、それだけランナーズハイが起きる確率が上がるのです。
ランナーズハイが起きる仕組みと原因
ランナーズハイが起きる理由が明確になったところで、次は具体的にどうすればランナーズハイを起こせるのか、その仕組みと原因を探っていきましょう。
ランナーズハイが起きる仕組み
ランナーズハイが起きる仕組みとして考えられているのが「β-エンドルフィン」という脳内物質の影響です。
β-エンドルフィンには、鎮痛作用や多幸感をもたらす作用が含まれており、その影響によって「ランナーズハイ」が起きると言われています。
また、β-エンドルフィンは、外的ストレス刺激が強いほど多く分泌される脳内物質でもあります。
ですから、ランナーズハイはレースの前半や中盤よりも、筋肉疲労が溜まったレース後半から終盤にかけて起こることが圧倒的に多いです。
レース前半から溜まった筋肉疲労や走り続けることに対しての精神的な苦しさは、走っている間にどんどん蓄積されていきます。
β-エンドルフィンは、そうした心身疲労の蓄積を和らげるために分泌されるので、ランナーズハイは苦しさや痛みが出てくるレース後半以降に出てくることが多いのです。
ランナーズハイが得られる身体の使い方
では、実際に「ランナーズハイ」を体験するには、ただただ走り続ければよいのでしょうか?
もちろん、それだけでは非常に難しいでしょう。
ランナーズハイを体験するためには、それを得るために必要な「身体の使い方」があります。
そのポイントは、「脊椎(せきつい)」です。
私たち人間は「脊椎動物」。きちんと背骨を支柱にして身体を動かすことを意識すると、効率的に身体が動き、脳内への刺激もスムーズに伝わるようにできています。
ですが、人間は脊椎動物であると同時に「二足歩行」をする動物でもあります。そのため、足を使って走ることに意識を向け過ぎてしまい、脊椎主導の運動ができていない場合が実は多いのです。
ですから、脊椎をしっかり立て、足はそれに沿うように走る、そうすることで脊椎主導になり、走っていても身体に負担が少ない「高揚感」を感じる走りに変えることができます。
では、具体的どこを意識すれば脊椎主導の身体の使い方に変えていくことができるのでしょうか?
ここであなたに意識してもらいたいのが、「大腰筋(だいようきん)」という筋肉です。
大腰筋はインナーマッスルのひとつで、「達人の筋肉」などと称される筋肉になります。
脊椎の中心にある腰椎と脚部の大腿骨を跨ぐ、腰と足をつなぐ筋肉です。
つまり、この大腰筋をしっかり使って走れば、足に過度な負担を掛けることなく、気持ちよい走りを体験することができます。
「腰から下が足」という気持ちで腰をしっかり使って走ると、身体を思うようにコントロールすることができるはずです。
ランナーズハイの体験を目的としない時も、この身体の使い方が理解できていれば、膝や足首を痛めずに走ることを楽しめます。ぜひ覚えておいてくださいね。
ランナーズハイになる原因
ランナーズハイになる原因は、今も様々な国の研究機関で研究されています。
先ほども少し触れましたが、近年有力だと言われているのが脳内伝達物質である「β-エンドルフィン」です。
β-エンドルフィンは、外的ストレスなどよって産出され、鎮痛や鎮静に働く作用があります。
その作用はとても強力で、ガン患者が鎮痛薬として使用している「モルヒネ」の約6.5倍の作用があるとも言われており、その効果でランニング中の苦しさや筋肉疲労が抑えられ、ランナーズハイの現象を引き起こすと考えらえています。
また、β-エンドルフィンには鎮痛作用だけではなく、とても強い幸福感である「多幸感」をもたらす作用もあると言われています。
その「多幸感」という作用が、ランナーズハイの時に感じる「高揚感」につながっているのでしょう。
しかしごく最近になり、ランナーズハイの時に感じる高揚感はβ-エンドルフィンではなく、別の脳内麻薬の影響ではないかという説も出てきています。
その物質は、内在性カンナビノイドに属する化学物質で、マリファナから検出される物質と同じようなものだそうです。この物質は体内で自然に生成され、不安を和らげるとともに痛みを感じにくくする作用があるのだとか。
このように、まだまだ解明されない部分があるものの、ランナーズハイは鎮痛や高揚感を促す脳内伝達物質の影響により起こるものということは確かといえるでしょう。
ランナーズハイを起こす方法4つ
ここからは、これまでにお伝えした内容を踏まえて「ランナーズハイを起こす方法」をまとめます。
科学的な根拠や心の在りようなど、様々な側面から考えられる方法をお伝えしていきますので、ぜひ試してみてくださいね。
1.内発的な動機をもつ
ランナーズハイを起こすための方法として、最初に意識する必要があるのは「走る動機」です。
ランナーズハイを起こしたいのであれば、損得勘定を抜きにして「完全な自発的欲求」のもとで走ることが必要だと言われています。
つまり、ダイエットや健康のためとか、競技者としてベストタイムを目指すなどといった外発的な動機ではなく、「ただ走りたい」という心の内側から発する動機によって走るのです。
そうした内発的な動機づけで走っている時には、心の状態がフラットになります。それがランナーズハイを起きやすくするのです。
2.脊椎(大腰筋)を意識して走る
先ほどの項目でもお伝えしたように、ランナーズハイを引き起こすためには身体の使い方も重要です。
脊椎を支柱にして、大腰筋を意識した走りをするようにしましょう。
通常、走るために足を動かす動作と言えば、太腿の筋肉やひざを意識する人が多いはずです。
もちろん、これらの場所も走るためにはしっかり意識をしなければならない身体の部位ではありますが、身体の支柱がしっかりしていない状態で足にばかり意識が向いてしまうと、余計な負荷がかかってしまいます。
大腰筋は腰と足をつなぐ筋肉ですから、腰を使って走るだけで余計な負荷をかけず、気持ち良く走ることができます。
脊椎動物である人間は、脊椎を中心に身体を使うことが本来の身体の動かし方です。
本来ある身体の使い方をすることで、精神もハイな状態に持っていくことができます。
3.冷静さをキープして走る
では、しっかり身体が使えていれば、ランナーズハイを起こすことができるものなのでしょうか?
必ずしもそういうことではありません。
身体がしっかり使えていると、疲労が溜まりにくく苦しくないため、走るペースがどんどん上がっていく傾向にあります。
すると、ランナーズハイを感じる前に心身の限界を超えてしまうこともあるのです。
そうなるとランナーズハイを起こすどころではありません。
そうならないためには、どんなに気持ちがハイになっても心の一部は常に冷静であることが必要になります。
身体への負担を最低限にしてランナーズハイの爽快感を得るためには、自分のペースを守ることが大切なのです。
そうした一定のペースを保つためには、音楽を聴きながら走るというのが効果的です。
自分のペースに合わせたテンポの曲でプレイリストを作成し、それを聴いて走れば、ペースを守って最適のスピードで走ることができます。
音楽の力を借りて冷静さをキープし、効果的にランナーズハイを起こしましょう。
4.本能的に走ることを楽しむ
ランナーズハイを起こすためにもっとも大切なことは「本能的に走ることを楽しむ」ことです。
ランナーズハイをもたらすと言われるβ-エンドルフィンは、本能にしたがった行動や考え方をすることで、多く分泌されるようになると言われています。
ですから、ランナーズハイを効果的に起こすためには本能から走ることを楽しむことが何より大切なのです。
ランナーズハイが身体へ与える影響2つ
ご存知のように、ランナーズハイは脳内物質の影響を受けて起きるものです。そのため、その脳内物質の分泌により、身体にもいくつか影響が及ぼされると言われています。
ランナーズハイの状態が身体へ与える影響として考えられるものとは、いったいどんなものがあるのでしょうか?
1.身体の限界を超えてしまう
ここまでの項目で何度もお伝えしてきているように、ランナーズハイは「β-エンドルフィン」という脳内物質の影響で引き起こされます。
β-エンドルフィンは、鎮痛や多幸感を生む脳内物質であり、「長距離を長時間走り続ける」といったような身体への負荷が刺激となって分泌が促進されます。
つまり、ポイントを押さえて身体に負荷をかけるほど、ランナーズハイは起こりやすくなり持続します。
ですが、β-エンドルフィンはあくまで脳内麻薬。身体に相当な負荷をかけているにも関わらず、その負荷を脳内で「勘違い」させているだけに過ぎません。
そのため、ランナーズハイに乗せられていつも以上のスピードを出したり、自分の能力以上に長距離を走ってしまうと、必要以上に身体へかかった負荷により酷い筋肉痛になったり、けがをしてしまうことがあります。
ランナーズハイになれば、苦しみや痛みを感じることなく走り続けられるかもしれませんが、本来ある苦しみや痛みは「身体の限界」を知るために必要な感覚です。ですから、あまりランナーズハイに頼り過ぎないようにしたほうが賢明でしょう。
2.ランナーズハイが若返りをもたらす?
脳内物質の影響で苦しみや痛みを緩和し、爽快感を得る「ランナーズハイ」。
脳の影響が大きいことから、現在も様々な側面からその研究が行われています。
ランナーズハイに大きく関係している「β-エンドルフィン」は、運動をして身体に負荷がかかった状態の時に分泌が増加するということから、以下のような実験が行われました。
日常生活の中であまり運動をしない男性8人に、有酸素運動の自転車こぎを30分間やってもらいました。
その結果、リラックスしている時に出る脳波のひとつのα波が13.5%、β-エンドルフィンに関してはなんと75%も、運動中や運動後に増加したそうです。
このα波とβ-エンドルフィンは、リラックス作用があるだけでなく、大脳の働きを高めるため、若返りの効果もあるとのこと。
ちなみに、β-エンドルフィンは、筋トレのような無酸素運動よりもマラソンのような有酸素運動の時に、より分泌が促されるそうです。
さらに、視覚や嗅覚などの五感に快い刺激を与えると、その分泌は益々活発になると言われています。
ですから、ランナーズハイを感じるような長距離走を風景のよい場所で行うと、爽快感を得られるだけではなく、若返りも期待できるのです。
ランナーズハイと似て非なるものとは?
実は、ランナーズハイに非常によく似た現象が走り始めのころに起きることがあります。
これは、ランナーズハイと似て非なるものです。
セカンドウイング
マラソンやジョギングのように長距離を走るランナーの中で「走りはじめた時はきついのに、走っているうちにだんだん身体が軽くなる」ような体験をする人は少なくありません。
ですが、実は「ランナーズハイ」とは限らないのです。
もしかすると、「セカンドウイング」と呼ばれる状態かもしれないのです。
走りはじめた時、人間の身体は運動の負荷に順応していないため、必要な酸素量に対して十分な酸素を取り込むことができません。
そのため、最初は苦しいのですが、徐々に身体も温まって、血圧や心拍数も落ち着くと、体内への酸素供給量が追いついてきます。
そうすると、身体への負荷が軽減されるため、フッと身体が軽くなったように感じることがあります。
この理由で起きる現象は、「ランナーズハイ」ではなく「セカンドウイング」です。
この「セカンドウイング」は、走りはじめる前のウォーミングアップが不足していると起こりやすくなると言われています。
ですから、走りはじめる前にはストレッチなどをしっかり行って、身体を温めてからスタートすれば、紛らわしいセカンドウィングは起きにくくなります。
ランナーズハイは、走りはじめよりも運動負荷により身体へ疲労が溜まった走り終わりに近い時に起こる状態です。
セカンドウイングをランナーズハイと勘違いしてしまうと、走りはじめからムリをしてしまうことにつながりますので、ぜひお間違えなさらないように。
まとめ
残念なことに、実はここでお伝えした方法をすべて試したとしても、ランナーズハイを100%確実に起こすことはできません。
確実に体験できるのかどうかには「個人差」があるからです。
走る距離や体力・筋力などを工夫することで体験できた人もいれば、同じようにしても体験できない人もいます。
しかし、自分自身を厳しく鍛えていく過程で、ランナーズハイを起こすことは十分可能です。
少なくとも、今回紹介した方法はランナーズハイが起きる仕組みを踏まえた上での方法ですので、これらの方法を実践すれば、ランナーズハイが起きる確率は格段に上がります。
あなたも極限の爽快感「ランナーズハイ」を感じてみたいのなら、今回紹介したランナーズハイを起こす方法を参考にしてみてくださいね。