- きょうだい児とは?
- きょうだい児の特徴
- きょうだい児の抱える問題と支援策
社会的に「きょうだい児」が問題になっていることをご存知でしょうか?
きょうだい児は、障がいを持つ子どもと「きょうだい」であるがゆえに、心に大きな負担を抱えています。
きょうだい児は、大人になっても精神的に不安定なことが多いことから、近年、社会問題としても注目されています。
今回はきょうだい児について詳しく解説していくとともに、その問題や支援の様子についてもお伝えしていきます。
きょうだい児とは?
きょうだい児とは、病気や障がいの兄弟姉妹をもつ子どもを指す言葉です。
きょうだい児は、病気や障がいなどが原因でケアが必要な兄弟姉妹がいる影響で、独特の悩みを抱えているケースが多いです。
自分の兄弟姉妹は障がいを抱えていても、自分自身は健常者です。
きょうだい児は病気や障がいを抱えたきょうだいの世話をしなければならなかったり、親が自分にはなかなか構ってくれないケースが多く、親に甘えられない、きょうだいのことで周りにいじめられるなどその悩みは様々です。
きょうだい児として育った子どもは、大人になっても自己肯定感が低かったり、孤独感に悩まされる問題も顕在化しています。
似たような状況の子どもを指す言葉に、ヤングケアラーというものがあります。
実はこのヤングケアラーのほうが先にメディアに注目され、きょうだい児の問題も取り上げられるようになりました。
ヤングケアラーとは?現状の問題点と支援の形きょうだい児の気持ちからわかる問題
実は私自身がきょうだい児です。
その立場から「今のメディアのきょうだい児の取り扱い方はまだまだ視野が狭い」と感じることがあります。
きょうだい児は、障がいのあるきょうだいと仲良くしていて優しい
きょうだい児は、大人になってもきょうだいと関わりを持ちつつ暮らしたい
こういった角度でメディアは伝えることが多いですが、ハンデを抱えたきょうだいに優しく接する優等生のようなきょうだい児ばかりではありません。
私自身、きょうだいのことでいじめに遭っていた時期がありましたが、親に相談すると悲しむだろうと思い、いじめの事実を1人で抱え込んでいました。
その時期の私は、自信をもってきょうだいのことを心から好きだと言える自信がありません。
私と同じ立場のきょうだい児の本音がわかるアンケート結果があります。
きょうだい児が抱える気持ちと問題を、ぜひ知ってください。
きょうだい児の気持ち(アンケート結果)
このアンケートは、以下の記事から引用しています。
障害者の兄弟姉妹「きょうだい児」、社会に見過ごされてきた生きづらさ
①ハンデを抱えるきょうだいのことをどう思っているか?
きょうだいに対して好意的な気持ちを持っている人が若干多いという結果。
ですが、あまり変わらない人数が嫌悪的な気持ちを抱えていることがわかります。
障がいの有無に関わらず、きょうだいだからといって必ずしも仲が良いわけではないんです。
➁きょうだい児で良かったと思うことは?
この質問には、以下の回答がありました。
- 社会的に弱い立場の人の存在を知ることができた。
- 障がいに対する様々な知識や経験が得られた。
- 福祉関連の仕事に就き、充実している。
ハンデを抱えるきょうだいが身近にいたからこそ、自分の進路選択にも良い影響があったと感じている人が多くいます。
かく言う私も、福祉専門職として20年以上働きました。
福祉を学んだ大学時代には、私と同じきょうだい児の存在が多くあり、自分の価値観や性格形成に対して、ハンデを持つきょうだいの影響は大きかったのだと感じます。
③きょうだい児でつらかったこと・つらいと感じることは?
一方で、自分がきょうだい児であるがゆえにつらい思いをしてきた人は多いです。
この質問には、以下の回答がありました。
- きょうだいのことでいじめにあっていたが、親に相談できなかった。
- きょうだいに手がかかるため、親が構ってくれなかった。
- 親からの評価が平等ではないと感じていた。
- 親に心から甘えられなかった。
この他に、一般的な家庭ではあり得ないような経験をしている人も多くいます。
自分が生まれてきたのは「将来きょうだいの世話をさせるため」だと言われた人も。
子どもの頃からきょうだいの世話を手伝うヤングケアラーとして育つきょうだい児も多数いると言われています。
また、大人になってからきょうだい児であることがつらいと感じることとの問いには、以下の回答がありました。
- 結婚をするときに、相手の親に障がいのあるきょうだいがいることで難色を示された。
- 親が亡くなった後は、自分がきょうだいの世話をしないといけないと感じており不安を覚えている。
- 子どもの頃からしっかりしていると言われ続けたことで、大人になり生きづらさを感じている。
大人になってから抱えるきょうだい児のつらさは本当に様々で、社会的な問題に直結する悩みも数多くあります。
きょうだい児が抱える問題
以上のきょうだい児の本音がわかるアンケート結果から、以下の問題が浮き彫りとなります。
- 自己肯定感の低さ
- 感情のコントロールが難しい
- 人間関係への影響
- 将来の進路選択への影響
- 自身の結婚の困難さ
- 親世代の他界後への不安
自己肯定感の低さ
障がいを抱えている子どもに対しては、スモールステップで褒めることが望ましいと言われています。
そのため、親たちは障がいを抱えている子どもには、小さなことでも褒めてあげます。
一方、きょうだい児に対しては、健常児だからそのくらいはできて当たり前と言われ、褒められません。
その経験が、自分に自信が持てず自己肯定感の低い人間を作ることになります。
自己肯定感の低さは、大人になっても様々なことに悪影響を及ぼす、見過ごすことのできない問題のひとつです。
感情のコントロールが難しい
きょうだい児は、子どもの頃から障がいを抱えるきょうだいの世話をしていることが多く、周りの大人から「しっかりしていて優しいね」などの言葉を掛けられて育ちます。
そのため、きょうだい児本人も、困っている家族のためにしっかりしなくては、頑張らなくてはと自分に言い聞かせます。
ただ、頑張り続けることで、きょうだい児は自分の感情をどのように表現して良いかわからなくなります。
気づかないうちにストレスがたまって心身を蝕んでしまうこともあるので注意が必要です。
人間関係への影響
きょうだい児の中には、自分のきょうだいが障がい児であることを隠す人も少なくありません。
特に、思春期の頃は周りの目が気になり、友達などにはきょうだいの存在を隠すことが多いです。
また、大人になってからも恋愛はもちろん、結婚となると相手の親からどう思われるかが気になり、障がいを持つきょうだいのことを隠すケースもあります。
周りに対して常に秘密を抱えている状態は、人間関係の構築に悪影響をもたらします。
悪影響をもたらす人間関係の対象は、他人とは限りません。
自分の親に対しても、きょうだいのことを周りに隠していることが罪悪感となり、適切な関係性が保てなくなるのです。
将来の進路選択への影響
私は、きょうだい児が福祉関連の仕事に就くケースは多いと感じています。
子どもの頃からきょうだいの世話を手伝ってきた経験が影響しているのだと思います。
福祉の仕事に就くことは決して悪いことではありませんが、きょうだい児でなければ選択しなかった進路かもしれません。
また、親世代が亡くなった場合に、きょうだいの世話を自分がしなくてはならないと考えるきょうだい児は多くいます。
そのため、将来的にきょうだいの世話をしなくてはならないことがわかっているので、転勤が多い職業に就くことを諦めることもあります。
きょうだい児は、自分のやりたい職業を諦めたり、きょうだいのケアができる職業を選ぶなど、自身の進路選択にきょうだい児であることが大きく影響してきます。
自身の結婚の困難さ
きょうだい児は、自身の結婚を考えるときにも障がいを持つきょうだいの影響を受けます。
一般的に、結婚するときには相手の家族にも了解を得る必要があります。
このとき、障がいを持つきょうだいがいることに対して難色を示す家族もいます。
きょうだいの障がいは遺伝性のものか?
将来的に、きょうだいの面倒を見るのは誰か?
そうしたことが問題となり、結婚自体が破談となるケースもあるのが実情なのです。
親世代の他界後の不安
親世代が亡くなった後、誰が障がいを持つきょうだいをケアするのでしょうか?
この問題を抱える家庭は、本当に多いです。
特に、知的障がいや発達障がいを抱えているきょうだいがいた場合、その不安はさらに大きくなります。
こうした障がいを抱える人は、他の病気や障がいと比べて環境の変化に強い拒否反応を示しやすいからです。
彼・彼女たちの生活環境を変えないため、きょうだい児側が生活環境を変えてケアをすることも多いらしいです。
きょうだい児の特徴
これまで紹介してきた悩みや問題を抱えるきょうだい児は、どのような特徴を持っているのでしょうか?
きょうだい児の代表的な特徴は、次のとおりです。
- 優等生(いい子)であろうと振舞う
- 孤独感が強い
- 罪悪感を抱えている
- 自己肯定感が低い
- 対人コミュニケーションが苦手
- 幼稚で攻撃的な面がある
優等生(いい子)であろうと振舞う
きょうだい児であることの最大の特徴は、常に優等生・いい子であろうと振舞うところです。
病気や障がいのある子どもがいると、どうしても親はそちらに注意が向いてしまい、健常児であるきょうだい児は孤独を感じます。
親が自分に関心をもってくれるのは、きょうだいの世話をしたときです。
「いい子だね」といって褒めてくれます。
それがほしくて、きょうだい児はいつの間にか、優等生として振舞うようになっていきます。
「お手伝いしてくれて偉いね」などと言われると、ますます優等生に拍車がかかってしまいます。
孤独感が強い
きょうだい児につらかったことを尋ねると、多くが孤独を感じていたと答えます。
ハンデを抱えるきょうだいのケアで忙しい親は、健常児であるきょうだい児には何でもできて当たり前だという認識を抱く傾向があります。
確かに、どんなに幼くてもハンデを抱えているきょうだいよりはできることが多いのですが、やはり子どもですから親に甘えたいときもあります。
ですが、何となくそれが許されないと感じています。
これが、きょうだい児は孤独感が強い原因です。
この孤独感は幼少期だけに留まらず、大人になっても払拭されないことが多いです。
ストレスや心の不調の原因になることも少なくありません。
罪悪感を抱えている
孤独感とともに抱えている、きょうだい児の特徴的な感情は罪悪感です。
私自身、重度の知的障害を持つ弟がいるきょうだい児ですが、小学校時代に弟のことでからかわれ、いじめに遭っている時期がありました。
ですが、そのことを母に伝えることができませんでした。
弟のことをからかわれているのに何も言い返せずにいる自分に罪悪感を感じていましたし、またそのことを母が知ると悲しむと思い、内緒にしていることにも罪悪感を感じていました。
このような経験を持っているきょうだい児は多いと言われています。
罪悪感は大人になっても払拭することができず、精神的な不調のきっかけになることがあります。
きょうだい児は、様々な側面で罪悪感を抱えています。
自己肯定感が低い
本当に、きょうだい児は親や周囲に気を遣って暮らしています。
親の役に立ちたいと思ってきょうだいの世話をしたり、親が悲しむといけないという思いから自分がつらくても親に打ち明けることができません。
親や学校の先生も、きょうだい児は何でもできて当たり前、優しい優等生として接するケースが多く、褒められる機会が少ない傾向にあります。
そうした環境で育ったきょうだい児は、他の子どもたちに比べて自己肯定感が低いという特徴を持つことになります。
自己肯定感の低さは、今の社会で生きていくのに様々な場面で弊害となります。
自分のことを認めることができず、精神的に追い込まれてしまうリスクを背負って生活しているのです。
対人コミュニケーションが苦手
自己肯定感が低いと、人とのコミュニケーションにも影響が出ます。
自分に自信がない状態なので、相手から強く言われると反論ができません。
逆に、何でも言うことを聞いてばかりいても相手からの信頼を得られません。
きょうだい児の中にはハンデを抱えるきょうだいの存在を周りに隠している人が多くいますから、そうした秘密を抱えたままでは、人とコミュニケーションで信頼関係を築いていくことは難しいでしょう。
きょうだい児の中にはコミュニケーションが苦手で、コミュニケーション自体を避ける人もいます。
幼稚で攻撃的な面がある
控えめで優等生、いい子としての特徴を持つ傾向が強いきょうだい児ですが、その一方で幼稚で攻撃的な一面を特徴として持つ人も少なくないと言われています。
アメリカの研究において、障がい児のいる家庭ではきょうだい児が親と争い、トラブルを起こしたり、非行に走る子どもが一般の家庭よりも多い傾向にあることがわかっています。
きょうだい児の親の気を引く行動には、親を困らせるパターンもあるということです。
きょうだい児が抱える問題と支援策
病気や障がいを抱えたきょうだいがいる環境で育ったがゆえに、様々な問題を抱えてしまうきょうだい児。
きょうだい児が抱える問題は、周りの人たちにはなかなか理解しづらく、今ようやく少しずつメディアに取り上げられて社会の人たちに知られつつあるというのが現状です。
きょうだい児問題を理解し、支援していくためには、まず現状を知っておく必要があります。
きょうだい児支援の現状
病気や障がいを抱えた子どもたちを支援する「放課後等デイサービス」という施設があります。
厚生労働省が定めた放課後等デイサービスガイドラインには、以下の文言があります。
父母の会の活動を支援したり、保護者会等を開催したりすることにより、 保護者同士のつながりを密にして、安心して子育てを行っていけるような支援 を行うことも望まれる。家族支援は、保護者に限った支援ではなく、きょうだいや祖父母への支援も含まれる。特にきょうだいは、心的負担等から精神的な 問題を抱える場合も少なくないため、例えば、きょうだい向けのイベントを開 催する等の対応を行うことが望ましい。
放課後等デイサービスガイドライン
つまり、障がい児本人と保護者である親だけでなく、きょうだい児を含む家族の支援も積極的に行うことが望ましいということです。
しかし、その実情はあくまで望ましいガイドラインにすぎず、支援に対して法整備が行われているわけではありません。
親のケアも重要
きょうだい児支援を模索する中で、忘れてはいけないのが保護者である親のケアです。
特に、子どもと接する機会が多い母親のケアは重要です。
きょうだい児問題を取り上げると、必ず「子どもを分け隔てなく育てた」という親たちの反論を耳にします。
もちろん、わざと差別して子どもを育てる親などいないでしょう。
ですが、病気や障がいを抱える子どもが1人でも家庭にいると、その子に手がかかるのは事実です。
きょうだい児が我慢をしなくてはならない場面も少なくないのです。
親の立場にいる人には、まず子どもたちの抱えている気持ちを理解してもらう、そして、決して親を責めているわけではない、ということを理解してもらう必要があります。
きょうだい児支援は、きょうだい児当事者にだけ焦点を当てたケアでは不十分です。
保護者である親に対するケアも同時に行っていくことが大切です。
きょうだい児支援窓口の紹介
もし、自分もきょうだい児で誰に相談していいかわからず悩んでいるという人がいたら、ぜひ下記のサイトを見てください。
あなたと同じ環境で育った人たちが全国にいます。
不安や悩みを抱えているのであれば、アクセスして情報だけでもひろってみてください。
きょうだい児とは?その特徴と抱える悩み まとめ
きょうだい児とは、病気や障がいを持つ人の兄弟姉妹のことを指す言葉です。
近年ヤングケアラーという言葉がメディアに注目されるようになり、それにつれてきょうだい児の問題も取り上げられるようになりました。
きょうだい児は自分自身が健常者であるため、病気や障がいを抱えたきょうだいの世話をしなければならなかったり、親が自分にはなかなか構ってくれないという経験をしつつ育ちます。
こうした家庭環境で育ったことから、きょうだい児は様々な不安や悩みを抱えています。
その結果、きょうだい児は次の問題を抱えることになります。
- 自己肯定感の低さ
- 感情のコントロールが難しい
- 人間関係への影響
- 将来の進路選択への影響
- 自身の結婚の困難さ
- 親世代の他界後への不安
また、きょうだい児として育った人には、以下の特徴が見られます。
- 優等生(いい子)であろうと振舞う
- 孤独感が強い
- 罪悪感を抱えている
- 自己肯定感が低い
- 対人コミュニケーションが苦手
- 幼稚で攻撃的な面がある
その特徴の多くは、家庭の中での親子関係の問題から生まれます。
ハンデを抱えるきょうだいにばかり注目が集まるなかで育ったきょうだい児は、いわゆる機能不全の家庭で育ったのと同じです。
機能不全の家族で育ったがゆえに、子ども時代に子どもらしく振舞えないまま大人になったアダルトチルドレンでもあるのです。
きょうだい児支援は、子ども時代にも丁寧にケアされていく必要がありますが、現状は大人になってからの支援が急務です。
きょうだい児支援の現状は、未だ法整備もされておらず、残念ながらまだまだと言わざるを得ません。
大人になってからのきょうだい児支援は、子どもに対しての支援より遅れています。
きょうだい児が抱えている気持ちを整理し、理解に努めて自分らしさを取り戻すための支援が必要なのです。
また、障がい児をもつ親へのケアも同時進行で進めていかなくてはなりません。
きょうだい児、そしてハンデを抱えるきょうだいの親が、きょうだい児の気持ちを知った時、自分の育児を否定されたと感じてしまうのは避けるべきです。
そうならないように、親に対するケアも忘れずに考えていくことが重要です。
きょうだい児問題は、日本社会が抱える問題の縮図とも言われています。
介護や子育てなど家族で抱えてきた問題も、社会の状況の変化により抱えきれなくなった今、社会全体で支援の形を模索すべきです。
きょうだい児の問題も社会に開示し、その支援の形を考えていく時期に来ているのではないでしょうか。
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