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サバイバーズギルトとは? 傷ついた心へのケアと克服方法

サバイバーズギルトとは

誰のせいでもないのに突然襲い掛かる事故や自然災害…そうした突然の状況では、一瞬の判断が生死を分けるといいます。

そして、そんな危機的状況で九死に一生を得たとしても

「なぜ自分だけが助かってしまったのか?」

「自分が助けてあげられたのでは?」

といった罪悪感に苛まれてしまう人が少なくないと言われています。

こうした心の状態を「サバイバーズギルト」と呼ぶのですが、サバイバーズギルトに陥り、苦しみを抱えている人にとって、励ましや慰めの言葉はかえってその人を傷つけてしまうそうです。

そこで今回は「サバイバーズギルトとは何か」ということを詳しく解説するとともに、実際に体験した人や今まさに克服しようとしている人の体験談を通して「どのように寄り添うべきか」を示していきます。

また、災害時の心の変化やケアに対する注意点などもお伝えしていきます。

相手を傷つけないために、周りの人たちはどのように寄り添い、その克服を手助けするのがいいのか正しく理解し、これから起こるかもしれない自然災害などに備える意味でも、きちんとした知識を身に付けておきましょう。

サバイバーズギルトとは?

その問題に直面している当事者や周りの人でなければ、あまり聞き慣れない言葉かもしれない「サバイバーズギルト」。

それは一体、どのような意味の言葉なのでしょうか?

まず最初に、ここでは「サバイバーズギルト」という言葉の意味や、そうしたことが起こる可能性などについて詳しくお話していきます。

サバイバーズギルトとは(言葉の解説)

サバイバーズギルトとは…災害や事故・事件、虐待などの被害に遭いながら奇跡的に助かった人が、関わった人や周りの人々が亡くなったことに対して感じる罪悪感のことです。

サバイバーズ・ギルトの「サバイバー」は「生き残り・生存者・遺族」を指し、「ギルト」は罪悪感を意味する英語から成り立つ言葉です。

古くは、第二次世界大戦下でのナチスによるホロコーストや日本の広島市・長崎市への原子爆弾投下本土空襲、特別攻撃隊などにより生き残った人々が抱える心の傷として知られています。

最近では、戦争ではなく凄惨な事件や事故、大震災や水害などの自然災害などから生き永らえた人々が、比較的こうした心理状態に陥ると言われています。

命の危険にさらされた状況を回想して

「あの状況では見殺しにするしかなかった」

「もしかしたら助けられたのでは?」

と証言している人がいるのであれば、その人はサバイバーズギルトに陥っている可能性が高いです。

こうした心理状態から、サバイバーズギルトは広い意味で「PTSD」いわゆる「心的外傷後ストレス症候群」とも考えられており、治療や関わり方もPTSDの人に対しての対応を心掛けると良いとされています。

そこで次の項目では、サバイバーズギルトが起こる可能性がある状況を知るために、PTSDを起こす原因と考えられている状況を通して解説していきます。

人がどのような状況に置かれた場合にサバイバーズギルトを抱えてしまうのかを理解していきましょう。

サバイバーズギルトが起こる可能性がある状況

サバイバーズギルトが起こる可能性がある状況というのは、どのような状況なのでしょうか?

一般的には、命の危険にさらされた場合や大切な人や物を一瞬で失う可能性を考える場合です。

以下に、そうした状況に陥る可能性がある事柄を挙げ、それぞれ詳しく解説します。

自然災害

日本においてPTSDという言葉が注目を集めるようになったのは、1995年に発生した阪神淡路大震災です。

この震災の被災者たちは、ほぼ例外なく精神的な不調を訴えていたと言われています。

まさに災害時PTSD、いわゆるサバイバーズギルトを発症していたのです。

PTSDは、人の精神状態に過剰な負荷がかかり、それを守ろうとする自己防衛機能から起こるものですが、自然災害は誰にも予期することができないものであるため、そのストレスは計り知れません。

自分の命が危険にさらされるだけでなく、大切な人を失ったり、生活環境が突然変わるなど…その後もストレス状態が続きます。

そのため、自然災害が発生した時には、ほかの状況以上に様々な困難に直面することになります。

また、自然災害の場合には、被災者だけがサバイバーズギルトの危険にさらされているわけではありません。

現地に入った自衛隊員や消防隊員、ボランティアスタッフやマスコミ関係者などもその無残な光景を目の当たりにして、PTSDを発症した例が数多く報告されています。

東日本大震災や熊本地震、九州北部豪雨災害など…近年は大きな自然災害が毎年のように発生しています。

だからこそ、サバイバーズギルトに対しての心理的ケアに努めていく必要があるのです。

犯罪や事故

予期できない状況という意味では、凄惨な犯罪事件や事故もサバイバーズギルトを発症するきっかけになります。

1995年に起きた「地下鉄サリン事件」は、PTSDが世に知られる大きなきっかけとなりました。

この事件の被害者の一部は、事件後、様々なPTSD症状で苦しみ、日常生活を送ることが難しくなったと言われています。

また、1985年の「日航機墜落事故」では、実際の被害者はほぼ亡くなられましたが、その遺族の多くにサバイバーズギルトの症状が見られました。

「あの飛行機に乗せなければよかった」

「別の便の航空券を買ってあげればよかった」

と自身を責めて、精神的な不調に陥ってしまう遺族が少なくなかったと聞きます。

地下鉄サリン事件のときも、救助に当たった駅員や救急隊員にPTSD症状が見られています。

このように、サバイバーズギルトは実害を受けた人だけでなく、その周囲にいた人々にも広がっていくものなのです。

いじめ・レイプなど

どんなに罪のない人でも、ある日突然、災害や犯罪に巻き込まれることがあります。

最近は特に、いじめやレイプ被害などによるPTSDが問題視されるようになりました。

いじめやレイプは、他者から加えられる苦痛の中で、最もPTSDとして精神的に印象が残りやすい体験だと言われています。

これらの問題は、PTSDとして精神的に不調をきたして苦しむだけでなく、それに耐えきれず、自ら命を絶ってしまう例が少なくありません。

いじめの場合、幼少期や思春期の精神的に不安定な時期に起こることが多く、友情や愛情を信じることができなくなり、その後の人生にも大きな問題を残します。

レイプの場合、心身ともに傷つける卑劣な行為によって、人としてのプライドが大きく傷つけられます。

いずれも「恥ずかしい」「報復が怖い」などの理由で、被害に遭っても周囲に相談できず、一人で抱え込む例が多く、サバイバーズギルトも深刻化してしまう傾向が強いです。

戦争体験

凄惨な場面に遭遇すると、その光景が忘れられなくなるという側面から、戦争体験はPTSD症状が発症する最たるものです。

アメリカではベトナム戦争帰還兵の問題から、PTSD研究が大いに促進したと言われています。

戦争体験においては、殺される人が被害者で、殺す人が加害者に違いないのですが、両者に大きな心の傷が残ります。

戦争で逃げ惑う体験をした人々と同じく、戦争に兵士として赴いた人々もまた、同じようにサバイバーズギルトを負うのです。

第二次世界大戦時、ナチスではユダヤ人を大量虐殺する「ホロコースト」が起こりました。

収容所では、ユダヤ人を大量虐殺するガス室のボタンを、同じユダヤ人に押させていました。

また、亡くなったユダヤ人の遺体処理も、同じユダヤ人が行っていたと記録からわかっています。

戦争体験でサバイバーズギルトが起きる原因は、自身の価値観を揺るがす出来事が次々と起こり、精神のバランスを崩していくからにほかなりません。

戦争体験は、何十年もの間その人の記憶から消えることなく、ずっと精神を蝕んでいくのです。

家庭内暴力や虐待

近年は、家庭内で起こる暴力や児童虐待も問題視されています。

家庭内で起こるこうした問題のほとんどは、これまで紹介した例と異なり、刹那的に起きる類のものではなく、長期間継続することが多いです。

肉体的な暴力や言葉による暴力、また性的虐待など…もし子どもがこうした被害に長期的に遭ってしまうとどうなるのでしょう。

子どもの頃から人格を否定され続けてしまうと、ネガティブな思考が慢性化してしまい、歪んだ愛情経験しか持つことができません。

そうして自己肯定感を育てる機会を失ったまま成長してしまうと、幼少期からの経験そのものがPTSDとして精神を蝕みます。

家庭内で起こることは、一般的にあまり外へ出ることがなく、長期化・深刻化しやすいです。

そのため、サバイバーズギルトに陥ってしまうと、なかなか払拭するのが難しいと言われています。

死にまつわること

人は、本能的に「死」を恐れる傾向があります。

そこには、災害や事故による死だけではなく、老衰など穏やかな死も含まれます。

自分の死だけでなく、他人の死も含まれます。むしろ、他人の死のほうが自身の死よりも強く精神的ダメージを受けるでしょう。

例えば、目の前で恋人が事故死したり、家族が津波にさらわれたり…そうした光景のほうがその後の人生を大きく左右するストレスを生みます。

サバイバーズギルトというのは「生存者の罪悪感」です。

生き残ったことよりも、大切な人を失ったという喪失感の方が心に大きな傷を残してしまうのです。

サバイバーズギルトを抱えた人への対応

自分自身が命の危機に晒された時の状況に苦しんだり、大切な人を失った喪失感や自分が助かった罪悪感から精神に不調をきたしていく「サバイバーズギルト」。

サバイバーズギルトは、災害や事故だけでなく、家庭や学校など身近な環境でも起きています。

もしあなたの傍に、サバイバーズギルトに陥り苦しんでいる人がいたら、あなたはどうすればいいのでしょうか?

強い苦しみを抱えていることが明白なのであれば、「なにか力になりたい」「役に立ちたい」と思うのが当たり前の感情です。

ですが、注意深く関わっていかないと、反対にその相手を傷つけてしまいます。

そうしたことにならないよう、以下で、サバイバーズギルトを抱えた人への適切な対応を理解しておきましょう。

サバイバーズギルトの主な症状

サバイバーズギルトは、前の項目でも説明したように、広い意味でPTSDの一種と考えられています。

そうした考え方から、PTSDの症状を通してサバイバーズギルトの主な症状を見ていくことにします。

症状の三大要素

サバイバーズギルトに陥ると、PTSD特有の症状として、次の3つの症状があらわれます。

  • 「再体験」
  • 「回避・麻痺」
  • 「過覚醒」

再体験とは、サバイバーズギルトに陥るようなトラウマ体験をしたことが、いつまでも記憶に残って蘇ることを指します。

無意識のうちに呼び起こされるこうした記憶は「フラッシュバック」や「悪夢」などの形で何度も繰り返され、まるで同じ体験を何度もしている感覚に陥ります。

次に、再体験したくないという思いから起こる症状が「回避・麻痺」という状態です。

トラウマ体験を思い出させるような記憶を忘れ、感情が高ぶらないように意識的また無意識的にもコントロールしていきます。「解離性健忘」や「感情の鈍化」といった症状がここに当てはまります。

そうして、トラウマ体験のような強烈な印象から覚めやまない「過覚醒」という状態に移行します。

「また恐ろしいことが起こるのではないか?」という気持ちから、警戒心が強くなったり、些細なことで驚くなどの行動にあらわれます

日常生活の中でも神経過敏状態から抜けられなくなり「不眠症」や「集中力の低下」などになっていくのです。

その他の症状

先ほどの項目でお伝えした症状の他にも、PTSD症状が進むと自律神経に極度な緊張が引き起こされ、身体にも様々な症状が見られるようになります。

一般的に知られている症状は、以下の通りです。

  • 動悸やめまい
  • 手足の震え
  • 過換気症候群(過呼吸)
  • 慢性的な倦怠感
  • 不眠による体調不良
  • 激やせ
  • 胃腸の不調
  • 月経不順

こうした症状は、薬物療法などの対症療法で一時的に良くなることがありますが、根本的なPTSDである「サバイバーズギルト」から抜け出せない限りは完治することがありません。

フラッシュバックや悪夢のたびに、動悸や手足の震え、過換気が再発する危険をはらんでいます。

サバイバーズギルトを抱えた人へかける言葉(タブーの説明も含む)

このように、サバイバーズギルトを抱えてしまうと、様々な症状が出て日常生活を普通に送ることが難しくなります。

そうして苦しんでいる人へ、私たちはどのようなどのような言葉をかけるべきなのでしょうか?

実は、サバイバーズギルトを抱えて苦しんでいる人には、かける言葉を探すのではなく「聴く」ことがなにより大切だと言われています。

相手の話に心を込めて耳を傾ける「傾聴」をこころがけるのです。

傾聴は、カウンセリングの基礎とされています。

臨床心理学者ロジャーズによると、傾聴する側の基本姿勢は次の3つにより成り立つとされています。

自己一致…ありのままに純粋であること。

無条件の肯定的配慮…相手を無条件に肯定して受容すること。

共感的理解…その人の気持ちになって理解しようとすること。

サバイバーズギルトを抱えてしまうほど苦しい経験をされた人にとって、その苦しみは本人にしかわからない深いもの。

無理になにかを聞き出そうとするのではなく、優しく寄り添い、そっとしておくことも大切な支援なのです。

言葉よりも先に、あなたが相手に真剣に向き合って傾聴するという姿勢を見せるだけで十分です。

まちがっても、以下で示すような「家族や親しい人を亡くした相手にかけるべきではない言葉」の使用は控えてください。

きっと、これが最善だったのです。

これが寿命だったのでしょう。

頑張って乗り越えてください。

あなたはできるだけのことをやったのです。

耐えられないようなことは起こらないものです。

もっとひどいことが起こったかもしれないのです。

他には誰も死ななくてよかった。

他にも色々な言い回しがあるでしょうが、いずれも相手の立場に立った言葉ではなく、自分自身の価値観を示す言葉です。

深い悲しみの中にあり、今も苦しんでいる人に対しては、こうした言葉はかけるべきではありません。

サバイバーズギルトを抱えた人と接するときには、細心の注意を払いつつ関わる必要があるのです。

何が一番の「心の支え」か?

サバイバーズギルトのようなPTSDを抱えている人と接するには、本当に多くのことに細心の注意を払う必要があります。

ですが、細心の注意を払っていたとしても、相手の気持ちを傷つけてしまうことがあるかもしれません。

それを期に、サバイバーズギルトを抱えた人と関わることそのものをためらうようになってしまうかもしれません。

しかし、だからといって、そうした傷ついた人と関わることを避けてしまうのは良くありません。

サバイバーズギルトを抱えている人にとって一番の心の支えは、やはり身近にいて繋がりのある人たちだからです。

1995年の阪神淡路大震災のとき、日本赤十字社は震災を経験した2000人以上の人々を対象にして、震災約1年後にストレスとメンタルケアに関する意識調査が実施されました。

この調査によると、被災時の体験を話すことができた相手は「家族や親類」「震災前からの友人」という回答が圧倒的でした。

これを見ても分かるように、家族や友人など…周りの人たちの支えが一番の力になります。

人々のつながりが希薄になりつつある現代社会ではありますが、困難な状況にあるときに、一番心の支えであると感じるのは、やはり普段から付き合いがあって、心を通わせている人たちなのです。

もし、あなたの周りに災害や事故をきっかけに長く連絡を取り合っていない相手がいらっしゃるなら、恐れずに連絡をしてみてください。

相手はきっと喜ぶでしょうし、その方の大きな支えになることができるはずです。

サバイバーズギルトと災害(震災)

サバイバーズギルトの中でも、近年、特に注目すべきなのは、「自然災害」に遭った人々への心のケアです。

自然災害時、どういった心理状態に陥り、その後のサバイバーズギルトへ対してどう注意していくべきなのでしょう。

災害時の心理状態

サバイバーズギルトの中でも、特に東日本大震災のような大地震を原因として生じたものを「震災トラウマ」と呼んでいます。

2011年3月11日に発生した東日本大震災は、地震だけでなく、そこから派生した大津波、原発事故、それらに伴う風評被害など…幅広い問題を起こしました。

あれから10年が経ちますが、今もなおそれらの問題により心に傷を抱える人が多く、支援する取り組みが継続されています。

また、最近は毎年のように夏が近づくと、豪雨災害が発生し、多くの人々が犠牲になりました。

こうした世の中の流れを見たときに、今後も大きな自然災害が発生することは明白であり、そのケアについて理解を深めておくことは本当に必要だと感じています。

以下に、災害時の心理状態をまとめました。ぜひ参考になさってください。

警戒期

自然災害を心的外傷として体験するときに、最初に訪れる心の変化が「警戒期」です。

水害などの場合には、天気予報を見たり、雨量や河川の増水量を見て、自然災害を予期し「来るぞ、来るぞ」と、心が警戒している状態を指します。

ですが、東日本大震災などのような地震災害の場合には、災害発生の予測が難しいので、いきなり次の「衝撃期」から始まると考えられています。

衝撃期

災害が発生すると、その衝撃と混乱で誰もがショックを受けます。

茫然自失の状態になり、恐怖心や怒り、悲しみなどの感情が生じ、血圧の上昇や心拍数の増加など…身体面にも反応が出ます。

この状況にある時期を「衝撃期」と呼びます。

特に、東日本大震災の時には多くの人々が津波で犠牲になり、遺された家族は受け入れがたい出来事に対して大きな心理的ショックを受けました。

大切な人の死の事実を受け入れられず否認したり、感情が麻痺したような状態になることもあります。

この時期には、ボランティア活動の支援者も、錯綜する情報を確認したり、実際の救助活動などに追われ、心の余裕が持てない状態になります。

衝撃期は災害発生直後から1週間ほど続きますが、現実的な支援が求められるため、まだまだ心のケアのニーズは高くありません。

本当であれば、こうした時期から現実的な生活支援とともに予防的観点で心のケアを行っていくことが重要だと考えられています。

ハネムーン期

衝撃期が過ぎると、災害発生直後の混乱した状態が徐々に収束していきます。

被災状況が少しずつ回復していく様を目にして、近隣同士での助け合いや外部からやってきたボランティアとの間で生まれる連帯感から気持ちも高揚します。

この時期を「ハネムーン期」と呼び、一見すると被害に遭った人々も元気を取り戻せたかのように見えます。

しかし、生活環境の大きな変化や大切な人を亡くした喪失感などから、ストレスが蓄積していきます。

感情の波が激しくなったり、急性ストレス反応障害(ASD)の状態に陥る人も見られるようになります。

被災状況が繰り返し思い出される「フラッシュバック」が起こり、不眠や過剰な反応が見られる場合もあります。

こうした様子が見られると、すでにサバイバーズギルトを抱えていると考えて対応していくべきです。

また、実際に被災していない支援者も、疲労が蓄積してきて二次受傷状態と呼ばれる状態に陥ってしまうことがあります。

使命感を持って支援を行ってくださっているのは大変ありがたいことですが、自身のケアを後回しにしてしまうのは良くありません。

被災者・支援者ともに、注意深くその心の状態を見ていくことが大切です。

幻滅期

一時的な高揚感を伴うハネムーン期が過ぎると、失われたものの大きさが改めて実感されて厳しい現実を認識します。

この時期を「幻滅期」と呼び、多くの人がやり場のない怒りを抱えて心を痛めます。

やり場のない怒りは、そのはけ口を求めて犯人捜しをしたり、自身が生き残ったことに対する罪悪感に生みます。

この状態がまさに「サバイバーズギルト」の状態であり、PTSD症状が強く表れて苦しい時期に突入します。

支援者側も、疲労感の蓄積と厳しい現実から無力感を感じて「燃え尽き症候群」になってしまったり、様々な心理的な問題を抱えはじめます。

幻滅期は、災害発生後3ヶ月以降に訪れる状態ですが、この状態の終わりは決まっていません。何年にもわたって続くこともあります。

また、たとえ同じ場面を見ていても、それぞれの価値観や置かれた立場・状況に応じて抱える心理的ショックも異なるため、被災者・支援者ともに、同じサバイバーズギルトを抱えるわけでもありません。

一人ひとりに対して真摯に向き合い、どのような心のケアが必要であるかを考えていかなくてはなりません。

災害時・災害後のサバイバーズギルトへの留意点

どのようなことに注意を払いながら、災害時の心のケアに備えていけばよいのか。

そもそも、災害が発生していない平常時から心のケアについての研修や普及啓発活動を進めておくことが大切です。

常日頃から勉強しておけば、支援活動が必要になった時、実施体制の構築がスムーズにできます。

災害が発生してしまったら、初動の段階で生活支援とともに心のケア活動の準備を進めましょう。

都道府県に対して専門チームの派遣を依頼しておいたり、被災者から聞き取りを進めて問題を抽出しておくことも重要です。

そうすることで、災害後早い時期から心のケア支援活動をスタートすることができます。

長い期間をかけた準備と根回しがサバイバーズギルトへ陥る可能性のある人を救うことにつながっていきます。

とはいえ、色々なことに気を配っても、やはりサバイバーズギルトを抱えることになる人はでてきます。

しかし、そうした人を支援するときに一番注意しなくてはならないことは、「踏み込みすぎない」ということです。

心のケア活動も、できるだけ同じ地域の人たちで支援していくことが望ましいです。

それは、先にも述べたように、傷ついた人々にとっての心の支えは「身近な友人」だからです。

ここまでお伝えしてきたことに十分留意して、サバイバーズギルトを抱えた人を支えていきましょう。

サバイバーズギルト体験談

最後に、実際にサバイバーズギルトを抱えている人から聞いた体験談です。

体験①(東日本大震災~野田村の人の話~)

この話は、私が東日本大震災発生後2年が経った岩手県野田村に赴いたときに被災者の方から伺ったものです。

岩手県野田村は、岩手県の中でも青森に近い位置にある沿岸部の町です。

某ドラマの舞台になった久慈市に隣接しており、東日本大震災の時には町の重要な機関が津波によりほぼ全壊するなど、甚大な被害を受けました。

最大約18メートルの津波が村を襲い、37名もの尊い命が失われました。

その被害範囲は村の約3分の1に及ぶなど、小さな村としては本当に大きな被害だったそうです。

私が出会った被災者の方は、震災後に新しくオープンした高齢者施設で働いている方でした。

その人のご自宅は少し高台にあり、地震によって物が倒れたりはしたものの大きな被害はありませんでした。

しかし、その直後に目の当たりにした津波被害の光景が忘れられないと言います。

何軒もの家々が津波により流され、その波間に車や人が流されている様子を目撃したそうです。

その日以来、自分自身や自身の家族などは無事でしたが

「あの流された人は助かったのか?」

「自分にもなにか出来たのではないか」

と思うようになったそうです。

そして、何年経ってもその光景を夢に見るそうで、すっかり不眠症になってしまった…と話されていました。

この方は、震災体験をトラウマとしたサバイバーズギルトを抱えていたのです。

それから数年が経ちますが、この被災者の方にお会いする機会はいまだ訪れていません。

心に傷を抱えた人に家族や友人が寄り添っていることを祈るばかりです。

体験②(福知山線脱線事故)

2005年4月25日。

JR発足後、最悪の鉄道事故である「福知山線脱線事故」が発生しました。

7両編成の快速電車は、スピードの出しすぎが原因でカーブを曲がりきることができず、脱線転覆して線路脇に建つ新築マンションの1階部分に激突。

激突したマンションの1階部分に機械式駐車場が入っていましたが、そこに1両目が潜り込むように突っ込み、2両目がマンションの柱に激突…後続車両も続けて激しく脱線しました。

この事故により、運転士を含めた107名が死亡、562名が負傷するという、日本の鉄道史の中でも屈指の凄惨な事故です。

事故が発生したのは月曜日の朝ということもあり、通勤通学のため多くの乗客が乗っていました。

そのため、犠牲者の死亡原因の多くが頭部への衝撃、次いで多かったのが窒息でした。

多くの乗客が脱線の衝撃で倒れて折り重なり、胸が圧迫されて呼吸困難となり亡くなったのです。

また、助かった負傷者も長期の入院やリハビリを余儀なくされ、想像を絶する苦痛を味わった人が少なくありません。

そうした悲惨な現場に居合わせた人の多くがPTSDを発症するとともに、生き残ったことに罪悪感を感じて「サバイバーズギルト」を抱えてしまいました。

この事故も発生してから15年が経ちましたが、事故の被害者や犠牲者の遺族の多くがサバイバーズギルトを抱えて今も苦しんでいると言われています。

事故原因の究明や保障問題も重要ではありますが、心の傷を抱えた人々へのケアも継続的に行われて行ってほしいものです。

体験③(天ケ瀬の話)

令和2年7月、豪雨で被災した人の話をしたいと思います。

令和2年7月豪雨は、熊本県や大分県を中心に九州・中部地方などで発生した集中豪雨で、被災した各県いずれも甚大な被害を受けました。

大分県日田市天ヶ瀬町では、7月6日~9日にかけて降った集中豪雨により、町の中心を流れる玖珠川が2度にわたり氾濫し、川沿いにある天ヶ瀬温泉街ではホテル10軒が浸水被害に遭うほか、橋も2本流失しています。

私自身も身近な友人がたくさん被災し、変貌してしまった町を見て、心から胸が苦しくなりました。

私自身が被災したわけではありませんが、自宅近くの川が氾濫して恐怖を感じたこともあり、しばらくの間、不眠傾向になりました。

そうです、私自身が軽傷ではありますが「サバイバーズギルト」を抱えてしまっていたのです。

そんな私が立ち直ったきっかけは何だったのでしょうか。

思い返しても…特別な治療を受けたり、カウンセリングを受けたりしたわけではありません。

少しずつ元気を取り戻していく天ヶ瀬の町を、そして友人たちを見て、その笑顔に励まされていたから立ち直れたのです。

今は私も、私にできることで少しずつ復興支援に関わっています。

サバイバーズギルトは、本当に「周りの人々との絆や繋がりを感じる」ことが心の支えとなり、心のケアに繋がっていくのだと痛感しています。

まとめ

サバイバーズギルトを抱えた人は、励ましや慰めの言葉を求めてはいません。

相手に「どんな言葉をかけるのか?」ということを考えるよりも、相手の話に耳を傾ける「傾聴」に力を入れて支援しましょう。

もちろん、相手が具体的な支援を求めている場合には、的確な情報やアドバイスを行う必要はあります。

その時には、「かける言葉」をしっかり吟味してから接するようにしてください。

そして、何も語らない人から無理して話を聞いてはいけません。そういう方には優しく寄り添うことがケアとなります。そのこともぜひ忘れずに覚えておいてくださいね。

サバイバーズギルトを抱えた人と関わるとき、あくまで「心」を支援するのだという姿勢が大切です。

苦しんでいる人の心に寄り添い、少しでも相手に楽になってほしい…そう願って接していけば、あなたも必ず誰かの力になることができます。

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